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薄毛を改善するために、育毛剤、飲み薬、かつら、結着増毛、はては人工毛移植など、様々なアプローチが試みられてきました。しかし、天然の自分の髪の毛が生える、増えるという意味では、満足する結果を得るのは難しいものです。『自分の髪の毛を生やすには、髪のある皮膚ごと移植してはどうか?』と昔の人は考えました。頭皮の移植の歴史は古く、アイデア自体は1800年代から存在したようです。研究結果として残っているものは、日本人である奥田医師が大戦前に発表し、戦後にアメリカで発展しました。今日では薄毛の治療法として、自毛植毛手術は、フィナステリド、ミノキシジルといった薬剤と同様に確立されています。
髪の毛を生み出す器官は、医学的には毛包 (hair follicle) といいます。皮脂を分泌する皮脂腺、汗を分泌する汗腺などとともに、皮膚付属器と呼ばれます。自毛植毛術の際、毛包を植物の苗にたとえて、株や移植株と呼ぶこともあります。
髪の毛が沢山含まれた皮膚をどこから採取するか?という問題があります。男の人の薄毛で、最も有名なものは男性型脱毛症(AGA)です。サザエさんの波平さんは、男性型脱毛症が進行した典型例です。そんな彼でも、後頭部だけはしっかりと髪の毛が残っているではありませんか。この部分こそ、株を採取する場所となります。ところで、男の人の薄毛は、全員がAGAではありません。他の理由から薄毛になっているケースもあります。また、女性にも薄毛で悩む方、薄毛ではないもののヘアラインを整えたいという理由から、自毛植毛術の適応となる患者さんがいます。これらの男性、女性においても、後頭部がドナーの第一候補となります。理由は、後頭部は頭全体の中で、最も髪の密度が高く、太い髪が多く、一つの毛穴から複数の毛が生えている毛包が多いからです。
必要な数の毛包を採取した後、髪の毛が少ない部分に移植します。一般の皮膚移植手術と同様に、数日後には頭皮と毛包の間に新しい血管のつながりが生まれ、1週間ほどで生着します。そこから髪の毛が十分な長さ、太さに生えそろうには、8カ月~1年程度の期間が必要です。
自分の皮膚を移植するわけですから、アレルギーの可能性や感染するリスクは低く、治療効果は半永久的に続くというものです。お薬については、自毛植毛術を受ければ薬はもう要らなくなるということはありません。薄毛の大きな原因がAGAである場合、フィナステリドなどの抗ホルモン薬を継続することで、病状の進行を緩やかに抑えることができます。必要に応じて人生で何度か自毛植毛術を受けられる方もいらっしゃいます。
自毛植毛術は万能の治療法ではありません。『毛包のお引越し』に過ぎないため、後頭部や側頭部に髪(毛包)が乏しい場合大きな手術はできません。その様な患者さんでは、必要最小限の材料で薄毛の改善を得るために、移植する部位、デザイン、密度などを厳密に検討しなくてはいけません。一方、AGAだけれども後頭部や側頭部はふさふさ髪があるという方は、大きな株数の手術を何度も受けることができます。
自分の髪の毛が生えるというのが最大のメリットです。既存の髪の毛と同じように伸び、抜けて生え変わります。ストレート、縮れ毛といった特徴も元々のものを引き継ぎます。頭皮の傷がしっかりと治癒した後は、水泳や激しいスポーツも躊躇なく行うことが可能です。パーマや、染色、脱色もできます。若い時に手術を受けた方が、後頭部に白髪が目立ってくる頃には、移植先でも白髪になってきます。
手術ですから身体への負担があります。痛み、腫れ、浮腫み、術後の安静(特に頭皮の)を要することなどのダウンタイムがあげられます。術後の特に1~2週間は、周囲に植毛手術がばれるのではないかという心配もあるでしょう。手術料金は、他の美容外科手術と比較して高額といえます。十分な長さ、太さに生え揃うまでには1年近くの期間が必要なため、即効性は無いです。何かのイベントに備え、すぐに薄毛をなんとかしたい場合は、かつらや結着増毛に頼るのが早いです。
ニードル法とは、自毛植毛の手術法の一つであり、毛包単位をあらかじめ移植針にセットし、これを頭皮に刺すと同時に置いてくるという方法です。代表的なものとして、Choi(チョイ)式という専用の移植針が知られています。毛包を得るためには、後述するストリップ法またはFUE法で準備する必要があります。
ニードル法と直接比較する相手として、スリット法があります。頭皮にスリットナイフ、注射針またはパンチで穴をあけておき、続いてピンセットを用いて毛包を穴に差し込むことを言います。スリット法の方がより高密度の移植が可能です。ニードル法では、移植針を皮膚に刺したとき、近傍の移植された毛包が押し出されてしまうため、高密度の移植が難しいのです。
1990~2000年代まで自毛植毛術の主流であった方法です。後頭部の頭皮を細長く切り取り、それを毛包単位になるまで細切れにします。髪の毛が少なくなった部分の頭皮に、穴を開け毛包を移植します。後頭部のドナーは、そのまま縫い閉じますから、直線状の長い傷痕が残ります。この手術の特徴として、毛包を得るためにかかる時間が短いと言えます。採取した皮膚を毛包単位に細切れにするための人手(数人がかりで行う)と時間は必要です。また、毛包を切り分ける際に、顕微鏡またはルーペ下に直視下で行うため、毛包の切断率が低いすなわちクオリティの高い移植株を得られ、発毛率が高いことが知られています。歴史の長い手術であり、技術は確立されまた手術料金も落ち着いています。
ストリップ法の欠点としては、手術後の痛みや違和感が強いことです。皮膚を切除して、そこをぐっと縫い閉じるわけですから、強い痛みやツッパリ感が続くのはやむを得ないです。ときには傷痕は幅広く、盛り上がり、目立つこともあります。後頭部の傷痕が見えてしまうため、短髪にしづらくなります。
ストリップ法のように大きく皮膚を切り取らずに済ませられないものか、というアイデアは昔から存在しました。直径5mm程度の丸いパンチで頭皮をくり抜き、塊ごと移植するというものです。丸い皮膚の中には多数の毛包が含まれているので、薄毛部分にポツンポツンと移植すると、ブロック状に不自然な感じになります。またドナー部分も大きな穴状の欠損が生じ、縫い閉じても傷痕が目立ちました。
FUE法は、これをもっと小さな最小の単位で行うというものです。2000年代の前半から始まり、現在では国内外で広く行われるようになった手術法です。日本国内においては、大手の植毛クリニックが名付けたダイレクト法という名称が有名です。FUEとはFollicular Unit Extraction の略で、毛包単位をひとつずつくりぬいて採取するという意味です。ストリップ法のように、頭皮を大きく切り取るということがなくなり、患者さんからは非常に好意的に受け入れられました。中空のパンチを頭皮に刺し、手動または電動器械で持ち上げて採取します。パンチの直径は1mmを超えるものから、細いものは0.85mm以下まであります。理論的にはパンチが細いほど、小さな傷ですみ、傷痕も目立ちにくくなります。しかし、細いパンチで毛包をくり抜くことは、技術的に難しく技量の低いドクターが行うと毛包を切断しやすくなります。傷ついた毛包を移植すれば発毛率は著しく低下してしまいます。これらの理由から、FUE法で切断率を低く抑え、なおかつ短時間に多数の毛包を採取するというのは極めて難しく、医師には高い技術が要求されます。
FUE法でできた後頭部の傷は、数日内で閉じて治り、その後は白い傷痕として残ります。ある程度周囲の毛を残しておけば白い傷痕は隠れて目立ちません。後頭部の髪の長さが5mm以下になると、傷痕は見えやすくなります。また、数千株を超える採取を行うと、後頭部の毛髪が乏しくなるため注意が必要です。生涯に無理なく採取できる株数は、個人差が大きいため植毛医とよく相談しましょう。
FUE法が普及した当初、多くの植毛医が十分な訓練をせずに行うようになったため、ストリップ法より発毛率が低い、後頭部の傷痕が事前の説明よりも目立つ、手術料金が高いなど、ネガティブな面も注目されました。特に、これまでストリップ法で実績を積み上げてこられたドクター達からの意見が多かったと思います。
ストリップ法、FUE法、素晴らしい結果を出して患者さんの満足を実現しているクリニックは存在します。2020年代の現在、各クリニックや個人のホームページ、SNSから手術結果について得られる情報は非常に多くなりました。十分に吟味したうえで、クリニックを選ぶことが大事です。納得できるまで、いくつかのクリニックを比較検討されると良いと思います。
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医師
【経歴】
2003年 | 金沢大学医学部卒業 |
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2003年 | 東京女子医科大学形成外科学教室へ入局 |
2011年 | 東京女子医科大学大学院進学(同時に美容外科研修を開始) |
2012年 | 井上浩一統括院長の元で、自毛植毛に従事 |
2015年 | 学位取得(東京女子医科大学大学院修了) |
2018年 | 獨協医科大学形成外科教室 医局長 |
2019年 | 獨協医科大学 講師 |
2023年 | アスク井上クリニック・アスク美容クリニック銀座 非常勤医師 |
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